企業経営理論_第3章_経営資源と資源ベースの戦略論

中小企業診断士 一次試験

企業経営理論

学習テキスト

第Ⅰ部 経営戦略論 ─ 第3章 経営資源と資源ベースの戦略論

「企業の競争優位は、『何をするか』 ではなく 『何を持っているか』 から生まれる」

第3章 経営資源と資源ベースの戦略論

第2章ではポーターの競争戦略論を学んだ。ポーターの視点は「外から中を見る」──つまり業界の構造を分析し、有利なポジションを選ぶことに主眼がある。しかし1990年代に入ると、まったく逆の視点が台頭した。「中から外を見る」──つまり企業の内部に蓄積された経営資源こそが競争優位の源泉だ、という考え方だ。

同じ業界にいても、トヨタとGMでは利益率が全く違う。同じ業界構造に直面しているのに差がつくのは、企業が持つ経営資源が異なるからだ──こうした問題意識から生まれたのが、本章で学ぶリソース・ベースト・ビュー(RBV)である。

3-1 VRIO分析の深掘り ─ 模倣困難性の4つの源泉

第1章で学んだVRIOフレームワークの「I(模倣困難性)」を、本章ではさらに深掘りする。令和7年度第3問では「模倣困難性を高める要因」がストレートに問われた。バーニーは、競合企業が経営資源を模倣する際に「コスト上の不利」をもたらす4つの要因を挙げている。

■ 模倣困難性の4つの源泉

(1)独自の歴史的条件(Unique Historical Conditions)

企業が長い時間をかけて独自の経緯で獲得してきた経営資源は、後から短期間で再現することが困難だ。令和7年度第3問の正解選択肢(イ)がまさにこれだ。「自社が歴史的な経緯で長い時間をかけて、独自の経営資源を獲得してきたこと」が模倣困難性を高める。

(2)因果曖昧性(Causal Ambiguity)

自社の経営資源がなぜ競争優位につながっているのか、そのメカニズムが外部からも内部からも明確にわからない状態。因果関係が曖昧なら、競合は「何を真似すればいいか」がわからず、模倣できない。

令和7年度第3問の選択肢ウ「自社の経営資源がどのように競争優位性につながっているのかが既に明確になっており、業界に知れ渡っている」は不適切。因果関係が明確で業界に知れ渡っていたら、競合は簡単に真似できてしまう。因果曖昧性が高いほど模倣困難性は高まるのだ。

(3)社会的複雑性(Social Complexity)

組織文化、人間関係、信頼関係、チームワークなど、人と人の間の複雑な関係に埋め込まれた経営資源。これらは設計図に書き起こすことができないため、外部から再現することが極めて難しい。

(4)特許(Patents)

法的な保護によって模倣を困難にする。ただし、特許は有効期限があり、迂回技術の開発も可能なため、単独で持続的競争優位を保証するものではない。

3-2 見えざる資産 ─ 伊丹敬之の独自視点

日本の経営学者、伊丹敬之は、企業が持つ経営資源の中で特に重要なのは「見えざる資産(Invisible Assets)」だと主張した。令和6年度第2問で出題された重要テーマだ。

見えざる資産とは、情報に基づく経営資源のことだ。具体的には技術やノウハウ、ブランド、顧客からの信頼、組織風土、熟練工の腕前などが含まれる。ヒト・モノ・カネは目に見えるが、これらの情報的資源は目に見えない──だから「見えざる資産」と呼ばれる。

■ 見えざる資産の特徴

(1)多重利用が可能

工場の設備は一度に1つの製品しか作れないが、ブランドイメージは複数の製品に同時に利用できる。「SONY」というブランドは、テレビにもヘッドフォンにもゲーム機にも同時に使える。いったん出来上がると、さまざまな形で多重に利用できるのが見えざる資産の大きな特徴だ。

(2)使うほど増える

工場の設備は使えば摩耗するが、ノウハウは使うほど蓄積される。顧客からの信頼も、取引を重ねるほど強まる。見えざる資産は減耗しないどころか、使用することで増殖する。

(3)企業の内部と外部の両方の情報の流れから生じる

見えざる資産は、企業と顧客との間の情報の流れ(外部)だけでなく、社内の部門間の情報共有や人材育成(内部)からも生まれる。令和6年度第2問のエが正解選択肢であり、この点が問われた。

(4)競争上の差別化の源泉になる

設備は買えるが、ノウハウは買えない。見えざる資産こそ、他社との差を生む最大の武器だ。

3-3 知識創造理論 ─ 野中郁次郎のSECIモデル

野中郁次郎が提唱した知識創造理論は、令和4年度第10問、令和5年度第11問で出題されており、組織論との境界にまたがる重要テーマだ。

野中はまず、知識を2種類に分けた。

暗黙知(Tacit Knowledge):言語化が困難な主観的知識。経験や勘、センスに基づく。寿司職人の握りの感覚、営業マンの「この客は今が売り時」という直感など。

形式知(Explicit Knowledge):言語化・数値化・図示が可能な客観的知識。マニュアル、数式、設計図など。

■ SECIモデル ─ 4つの知識変換プロセス

知識創造とは、暗黙知と形式知が相互変換されるプロセスだ。野中はこれを4つのモード(SECI)で説明した。

S ─ 共同化(Socialization):暗黙知 → 暗黙知

共体験を通じて、ある人の暗黙知を別の人に移転する。寿司職人の弟子が、師匠の隣で見て真似て、体で覚えるプロセスだ。言葉ではなく、「一緒にやること」で伝わる。

E ─ 表出化(Externalization):暗黙知 → 形式知

暗黙知を言葉やモデルに変換する。熟練工が「この音がしたらOK」という感覚を、振動数の基準値としてマニュアル化するような作業だ。メタファーやアナロジーが有効な手段になる。知識創造において最も重要な変換モードとされる。

C ─ 連結化(Combination):形式知 → 形式知

既存の形式知を組み合わせて新しい形式知を作り出す。データベースの分析や、複数のレポートを統合して新しい知見を得るようなプロセスだ。

I ─ 内面化(Internalization):形式知 → 暗黙知

形式知を実践を通じて身体化する。マニュアルを読んで理解した知識を、実際にやってみることで「体に染み込ませる」プロセスだ。「知っている」と「できる」の間の橋渡し。

■ 知識創造を促進する5つの条件

野中は、組織的な知識創造を促進する5つの条件(イネーブラー)を挙げた。試験では令和4年度第10問で直接問われている。

(1)意図(Intention):経営者のビジョンや戦略的意図。経営者の主観的な思いは、知識創造を阻害するのではなく促進する(令和4年度第10問のアは不適切)。

(2)自律性(Autonomy):組織構成員に自律性を与えることは、知識創造を促進する。「統制が取れなくなる」(同イ)は不適切。

(3)揺らぎと創造的カオス:安定を揺さぶる刺激が、新しい知識の種になる。

(4)冗長性(Redundancy):当面必要のない情報を重複して共有させること。一見ムダに見えるが、組織構成員間の共通理解を広げ、知識創造を促進する。「コミュニケーションに混乱が生じるので阻害される」(同ウ)は不適切。

(5)最小有効多様性:組織構成員に複数の役割を経験させ、多面的に物事を考えさせることは知識創造を促進する(同エが正解)。

3-4 コア・コンピタンス ─ ハメル&プラハラードの核心能力

答えは「エンジン技術」だ。ホンダのエンジン技術は、バイクから飛行機まであらゆる製品に応用されている。この企業の根幹にある技術やスキルの集合体を、コア・コンピタンス(Core Competence)と呼ぶ。G.ハメルとC.K.プラハラードが1990年のHBR論文で提唱した。令和5年度(再試験)第3問で出題。

■ コア・コンピタンスの3条件

① 顧客が認知する価値を高める:最終的に顧客の便益につながるスキルの束であること。ただし、顧客がその個々のスキルや技術を理解している必要はない(令和5年度(再試験)第3問のアが正解)。スマホの中のチップの設計技術を、消費者は理解していなくても、その恩恵は享受している。

② 競合他社に対してユニークである:ただし、個々のスキルや技術を企業が独占的に所有している必要はない。個々の要素は他社も持ちうるが、それらの「束ね方」がユニークであればよい(同イは不適切)。

③ 複数の製品・市場に展開可能:コア・コンピタンスは特定の製品に紐づくものではなく、複数の製品や業界に応用できる(同ウは不適切)。ホンダのエンジン技術がバイクにも車にもジェット機にも展開されるように。

■ コア・リジディティ ─ 強みが弱みに変わるとき

コア・コンピタンスには危険な一面がある。過去の成功体験に基づくコア・コンピタンスが、環境変化に対する適応を妨げる「足かせ」に変わることがある。これをコア・リジディティ(Core Rigidity)、あるいは「有能さの罠(Competency Trap)」と呼ぶ。

3-5 ダイナミック・ケイパビリティ ─ 変化する力

答えはノーだ。環境が激変すれば、昨日まで価値があった経営資源が今日は無価値になることがある。コダックの例がそれを証明している。

この問題意識から、デイヴィッド・ティースはダイナミック・ケイパビリティ(Dynamic Capability)の概念を提唱した。令和7年度第4問で初めてストレートに出題され、今後も注目のテーマだ。

ダイナミック・ケイパビリティとは、市場環境の変化を知覚(Sensing)し、新たなビジネス機会を活かし(Seizing)、必要時には既存の経営資源やプロセスを再構成(Transforming)する能力を指す(令和7年度第4問のオが正解)。

つまり、「今持っている資源をいかにうまく使うか」ではなく、「環境変化に応じて資源の組み合わせそのものを作り変える力」がダイナミック・ケイパビリティだ。

第3章のまとめ

1. VRIO分析の深掘り:模倣困難性の4源泉(歴史的条件・因果曖昧性・社会的複雑性・特許)。令和7年度で正面から出題。「歴史的経緯で長い時間をかけて獲得」が正解のキーワード。

2. 見えざる資産(伊丹敬之):情報に基づく経営資源。多重利用可能、使うほど増える、内部・外部両方の情報の流れから生じる。ブランドも含まれる。

3. 知識創造理論(野中郁次郎):SECI モデル(共同化→表出化→連結化→内面化)。促進5条件(意図・自律性・揺らぎ・冗長性・最小有効多様性)。「逆を言っている選択肢は全部不正解」のパターン。

4. コア・コンピタンス(ハメル&プラハラード):3条件(顧客価値・ユニークさ・複数展開可能)。会計上の資産ではない。コア・リジディティの罠にも注意。

5. ダイナミック・ケイパビリティ(ティース):環境変化を知覚→機会を活かす→資源を再構成。令和7年度に新出題、今後も必出。コア・コンピタンスやオーディナリー・ケイパビリティとの区別を正確に。

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