29-2.適応化と知識の移転
業診断士試験 令和7年度(2025年)
企業経営理論
第29問
次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。 食品メーカーA社は、これまで国内市場でさまざまな食品を製造・販売してきたが、今後の経営計画として国外への輸出、その他の方法による海外進出を視野に入れている。このため、同社では②グローバル・マーケティングについて、検討を開始した。
(設問 2 )
文中の下線部②に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 海外の国や地域に進出して間もない時期は、参入モードとして完全所有子会社による現地生産を採用することが必要であるが、現地でのビジネスが軌道に乗るにつれて、次第に直接・間接輸出に転換していく。
イ 極めて重要な経営資源である知識には、形式知と暗黙知がある。前者はマニュアルとして明文化したり図示したりすることにより国際移転が可能であるが、後者については移転できない。
ウ 参入モードの 1 つであるフランチャイズでは、母国の本社がフランチャイジーとして研究開発・マーケティング・生産を行い、進出先のフランチャイザーは販売とサービスを担当する場合が多い。
エ 製品やサービスを進出先の国や地域に合わせる適応化戦略は、標準化戦略より自社にとって高コストであるが、進出先における最終顧客の満足度は高い場合が多い。
オ 輸出マーケティングでは、当初は自社の製品やサービスを直接海外に輸出していた企業が、取扱量が増えるに従いリスク回避などの目的で商社などの輸出代行業を介して間接輸出を行うようになる。
この問題を解くカギは、海外でビジネスをやる上での「コスト」と「ノウハウ」の扱いを理解することです。
- 適応化戦略 vs 標準化戦略:
- 適応化(ローカライズ): 現地のニーズに合わせるため、顧客満足度は高まるが、開発・生産コストも高くなる。
- 標準化(グローバル・スタンダード): 世界中で同じものを作るため、規模の経済でコストは下がるが、現地の細かいニーズは拾いにくい。
- 知識の移転(SECIモデル関連):
- 形式知: マニュアル化できる知識。海外への移転は比較的容易。
- 暗黙知: 言語化しにくい経験やコツ。移転は難しいが、OJTなどを通じて移転自体は「可能」である。
🎯 「気の利いた」選択肢の捌き方(最短ロジック)
この問題は、ビジネスの「進化の方向」や「情報の性質」の矛盾を突くゲームです。
- ア:進出して間もない時期は完全所有子会社による現地生産を採用し、次第に輸出へ転換していく。
- ❌ 間違い: 進化の向きが逆です。通常はリスクの低い「輸出」から始め、手応えを得てから「現地生産(直接投資)」へと重層化していきます。
- イ:暗黙知については移転できない。
- ❌ 間違い: 「移転できない」という断定はバツです。暗黙知は移転にコストと時間はかかりますが、人的交流などを通じて移転することは可能です。
- ウ:フランチャイズでは、母国の本社が研究開発・マーケティング・生産を行い、進出先は販売とサービスを担当する。
- ❌ 間違い: ここが「気の利きどころ」。フランチャイズは、現地の加盟者が「自腹(自己資金)」で拠点を構えて運営します。本社が現地で生産まで行うのは、直営店に近い形態です。
- エ:適応化戦略は、標準化戦略より自社にとって高コストであるが、進出先における最終顧客の満足度は高い場合が多い。
- ✅ 正解: 完璧にトレードオフを説明しています。手間(コスト)をかけて現地に合わせるからこそ、現地のファン(満足度)を掴めるという理屈です。
- オ:直接輸出をしていた企業が、取扱量が増えるに従い間接輸出を行うようになる。
- ❌ 間違い: これも進化が逆です。ノウハウがない初期に商社などを使う「間接輸出」を行い、量が増えてノウハウが溜まれば自社でやる「直接輸出」へ切り替えるのが一般的です。
📝 「一言まとめ」
「グローバル戦略は『手間(コスト)』と『愛(満足度)』のバランス。 手間を惜しんで同じものを売るか、コストをかけて愛されるものを作るか。選択肢エはその本質を突いています。」
診断士試験では「知識は移転できない」「逆のステップを踏む」といった不自然な記述がよく混ざります。企業の成長物語として「次はどう動くのが自然か?」を想像することが正解への近道です。
