30.価格の多面性と流通慣行
中小企業診断士試験 令和7年度(2025年)
企業経営理論
第30問
プライシングに関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 価格を消費者による「支出の痛み」として捉えれば、価格は安いほど売れ行きは伸びることになるが、他方で価格を「品質のバロメーター」や「プレステージ」として捉えれば、必ずしも安い価格の方が売れ行きが伸びるとは言えない。
イ 顧客によって異なる価格を提示するプライシングは、鉄道サービスにおける学割やホテル業界におけるメンバーシップ制度などに見られるように古くから行われてきたが、時期によって価格を変えるプライシングが行われるようになったのは、デジタル・マーケティングによるダイナミック・プライシングが浸透した近年になってからである。
ウ サブスクリプションは、製品やサービスの所有権の移転を行わずに使用する権利だけを販売するものであり、音楽や映像などがデジタル化され所有権の移転を行わずに転送できるようになったことなどに示されるように、デジタル時代になって誕生した新しい契約形態である。
エ 自社製品を有利に扱ってくれる流通業者に対して、メーカーは割引価格などの金銭的見返りを提供することが多い。そのうち短期的な金銭的見返りは一般的にリベートと呼ばれ、長期的に提供されるアローワンスと区別される。
この問題を解くカギは、価格が消費者にとって「コスト(痛み)」であると同時に「シグナル(品質の指標)」でもあるという二面性を理解することです。
- 価格の心理的側面:
- 支出の痛み: 安いほど買いやすくなる。
- 品質のバロメーター: 「高いから良いものだろう」という推測。
- プレステージ: 高価であることがステータスや満足感に繋がる。
- ダイナミック・プライシング: 需要に応じて価格を変動させる手法(ホテルのシーズン料金など)は、デジタル時代以前から存在します。
- サブスクリプション: 所有権ではなく「利用権」を売るモデル。デジタル製品に限らず、新聞配達や牛乳配達のように古くから存在する契約形態です。
- リベートとアローワンス:
- リベート: 一定期間の売上達成などに対して、メーカーから流通業者へ後から支払われる金銭的払い戻し。
- アローワンス: 広告掲載や棚の確保など、特定の活動に対して支払われる協力金。
🎯 各記述の判定(正誤チェック)
- ア:価格を「支出の痛み」と捉えれば安いほど売れるが、「品質のバロメーター」等と捉えれば安いほど売れるとは限らない。
- ✅ 適切: その通り。消費者が価格をどう解釈するかによって、需要曲線は単純な右下がり(安いほど売れる)にはならなくなります。
- イ:時期によって価格を変えるプライシングは、近年のデジタル・マーケティングの浸透により始まった。
- ❌ 不適切: 鉄道の繁忙期料金やホテルの季節料金は、インターネット普及前から広く行われていました。
- ウ:サブスクリプションは、デジタル時代になって誕生した新しい契約形態である。
- ❌ 不適切: 前述の通り、新聞や雑誌の定期購読など、モデル自体は非常に古くから存在します。デジタル化で再注目されただけで、「誕生した」わけではありません。
- エ:短期的な金銭的見返りは一般的にリベートと呼ばれ、長期的に提供されるアローワンスと区別される。
- ❌ 不適切: リベートとアローワンスの区別は、「支払われる期間の長短」ではなく、「支払われる名目(売上高に応じるか、特定の活動に応じるか)」に基づきます。
🏆 解答
最も適切なものは 「ア」 です。
📝 「一言まとめ」
「価格は『痛み』であると同時に『誇り(プレステージ)』でもある。 安ければ売れるという常識が通じないのが、マーケティングの面白さです。」
診断士試験では、イやウのように「〜はデジタル時代に始まった」といった歴史認識の誤りを突く選択肢がよく出ます。手法の定義だけでなく、そのルーツがどこにあるかを想像することが、引っかけを回避するコツです。
