10.ユーザー・イノベーションと「粘着性」
中小企業診断士試験 令和7年度(2025年)
企業経営理論
第10問
ユーザー・イノベーションに関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 個人によるユーザー・イノベーションは、コミュニティを通じたユーザー・イノベーションよりも普及しやすい傾向にある。
イ ユーザー・イノベーションとは、企業の開発者が主体となり、アンケートやインタビューを活用して、顧客のニーズを調査し、その結果を製品開発に反映するプロセスである。
ウ ユーザー・イノベーションは、イノベーションのジレンマを引き起こし、既存企業が破壊的イノベーションに対応できなくなる原因となる。
エ ユーザー・イノベーションは、ユーザーが持つニーズ情報の粘着性が高く、技術情報の粘着性が低い場合に起こりやすい。
オ ユーザー・イノベーションは、リード・ユーザーと呼ばれる、特定の企業への忠誠度が高いユーザーによって引き起こされる傾向が強い。
エリック・フォン・ヒッペルが提唱したこの概念を解くカギは、**「誰が一番その不便さを知っているか?」**という視点です。
- ユーザー・イノベーション: 企業ではなく、ユーザー自身が自分の不満を解消するために製品を改良・発明すること。
- リード・ユーザー: 市場の大多数が直面する数ヶ月〜数年も前に、強いニーズに直面している先駆的なユーザーのこと。
- 情報の粘着性 (Information Stickiness): 情報がその場所から移動させるのにコストがかかり、動かしにくい性質のこと。
- ニーズ情報の粘着性: 「どんな時にどう困るか」という感覚はユーザー側に固着しており、企業に伝えるのは難しい。
- 技術情報の粘着性: 「どう作れば解決するか」という知識は企業側に固着している。
🎯 「気の利いた」選択肢の捌き方(最短ロジック)
この問題は、**「ユーザー・イノベーションの本質(ユーザーが自分でやる理由)」**を正確に捉えているものを選ぶゲームです。
- ア:個人による〜は、コミュニティを通じた〜よりも普及しやすい。
- ❌ 間違い: むしろSNSやオープンソースのような「コミュニティ」を通じて共有される方が、情報の拡散スピードは速く、普及しやすいのが現代の特徴です。
- イ:〜企業の開発者が主体となり、アンケートやインタビューを〜
- ❌ 間違い: これは「メーカー(企業)・イノベーション」の従来プロセスです。ユーザー・イノベーションは**「ユーザーが主体」**です。
- ウ:〜イノベーションのジレンマを引き起こし、〜原因となる。
- ❌ 間違い: イノベーションのジレンマは、既存の「優良顧客」の要望に応えすぎることで起こります。最先端を行く「リード・ユーザー」による変革は、むしろ破壊的イノベーションのきっかけになることが多いです。
- エ:〜ユーザーが持つニーズ情報の粘着性が高く、技術情報の粘着性が低い場合に起こりやすい。
- ✅ 正解: 完璧です。「なぜ困っているか」という情報はユーザーから引き出しにくい(粘着性が高い)けれど、解決するための技術(PC、3Dプリンタ、ソフト等)が身近にあり移転しやすい(粘着性が低い)なら、ユーザーが自分で作った方が早いよね、という理屈です。
- オ:〜リード・ユーザーと呼ばれる、特定の企業への忠誠度が高いユーザーによって〜
- ❌ 間違い: リード・ユーザーは「最先端のニーズを持っている人」のことであり、企業への「忠誠度(ロイヤリティ)」とは無関係です。
📝 「一言まとめ」
「『この不便さは私にしか分からない。でも作る道具は手元にある。』 そんな時に起こるのがユーザー・イノベーション。」
選択肢エの「情報の粘着性」は難解に見えますが、「動かしにくい情報がどっちにあるか」と読み替えればOK。ユーザー側のニーズ(悩み)を企業に運ぶコストが高いなら、ユーザーが自習して作る方が合理的、という逆転の発想です。
